『ミラボー橋の下をセーヌが流れ』⑫ ラフォルグ『ミラボー橋の下をセーヌが流れ』⑭ レニエ

2021年09月05日

『ミラボー橋の下をセーヌが流れ』⑬ メーテルランク

  シャンソン

妹たちよ、私はさがした、30年も、
  その人はどこにかくれたのか!
妹たちよ、私は歩いた、30年も、
  あの人のそばに近づけずに・・・・・・

妹たちよ、私は歩いた、30年も、
  それで、足はもうくたくただ。
妹たちよ、あの人はどこにもいた
  しかし、どこにも存在しなかった・・・・・・

妹たちよ、ついに悲しいときがきた、
  私のサンダルをぬがしておくれ。
妹たちよ、夕暮れもまた死にかけている、
  私の心は痛み苦しむ・・・・・・

妹たちよ、きみたちは16歳だ、
  さあ、ここから遠くにいくがいい。
妹たちよ、私の杖を取るがいい
  そして、探しにいったらいい・・・・・・

(『12のシャンソン』)

メーテルリンク

きょうは、モーリス・メーテルランクの「シャンソン」です。1890年に出された小冊子『12の歌』が初出で、これは増補されて『15の歌』となり、詩集『温室』にも収められました。原詩は次の通りです。

  CHANSON

J’ai cherché trente ans, mes sœurs,
Où s’est-il caché !
J’ai marché trente ans, mes sœurs,
Sans m’en approcher…

J’ai marché trente ans, mes sœurs,
Et mes pieds sont las,
Il était partout, mes sœurs,
Et n’existe pas…

L’heure est triste enfin, mes sœurs,
Ôtez mes sandales,
Le soir meurt aussi, mes sœurs,
Et mon âme a mal…

Vous avez seize ans, mes sœurs,
Allez loin d’ici,
Prenez mon bourdon, mes sœurs,
Et cherchez aussi…

「CHANSON」の詩節は、7a 5b 7a 5b の相称形4行詩ですが、古来、神秘の数とされてきた7とか5などの奇数をメーテルランクはとくに好み、試作品にもたくさん用いています。

モーリス・メーテルランク (Maurice Maeterlinck、1862-1949)は、ベルギー象徴主義の詩人。1886年にパリに留学してリラダンやマラルメと交際し、1889年に33の詩篇からなる『温室』(Serres chaudes)を出版して文壇にデビュー、同年には最初の戯曲『マレーヌ姫』(La princesse Maleine)を発表し、フランス演劇界に注目されました。

メーテルランクの詩集はけっきょくこの一冊だけで、彼の作品のなかで最も重要なのは戯曲ということになります。しかし、ポール・クローデルの象徴主義演劇に先立って新しい道を開いたこの劇作家の本質はあくまで「詩」にあった、と窪田は見ています。

シュールレアリスト、ブルトンも『温室』は、青年時代に感動した詩集の一つだといっているし、メーテルランクは、西条八十をはじめとする大正期の象徴派詩人にも少なからぬ影響を与えることになりました。


harutoshura at 03:00│Comments(0)窪田 般彌 

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